秒速5センチメートル感想

秒速5センチメートル

感想・考察をまとめました。

小説 秒速5センチメートル (角川文庫)

第1話 桜花抄

貴樹と明里の出会いと別れ。

彼らの小学生から中学生編を描く。

 

「ねえ、秒速5センチなんだって」

「え、何が?」

「なんだと思う?」

「わかんない」

「すこしは自分で

 考えなさいよ貴樹くん」

そんなことを言われても分からないので、

僕は分からないと素直に言う。

「桜の花びらの落ちるスピードだよ。

 秒速5センチメートル

タイトル回収。

 

約束の日まではまだ2週間あったから、

僕は時間をかけて明里に渡すための

長い手紙を書いた。

それは僕が生まれて初めて書いた、

たぶん、ラブレターだった。

結局、貴樹くんは、

この手紙を明里ちゃんに渡せない。

 

「お客さまにお知らせいたします。

 宇都宮線、小山・

 宇都宮方面行き列車は、

 ただいま雪のため到着が

 8分ほど遅れています」

とアナウンスが告げていた。

遅れる電車。

 

せめて温かい缶コーヒーを

飲むことにして、

自動販売機の前まで歩いた。

コートのポケットから

財布を取り出そうとした時に、

明里に渡すための手紙がこぼれ落ちた。

貴樹くんは、手紙を落としてしまう。

 

今にして思えば、

あの出来事がなかったとしても、

それでも手紙を明里に渡すことに

していたかどうかは分からない。

どちらにしてもいろいろな結果は

変わらなかったんじゃないかとも思う。

貴樹くんは、手紙を渡したとしても、

結果は買わなかったと予想する。

しかし、僕は手紙を渡していれば、

結果は変わったと思っています。

 

「ねえ、まるで雪みたいだね」

と明里が言った。

「そうだね」

と、僕は答えた。

満開の桜の舞う木の下で、

僕を見て微笑んでいる

明里が見えたような気がした。

回想に良く出てくるシーン。

 

「あの、貴樹くん」

はえ、という返事とも

息ともつかない声を

出すことしかできない。

「貴樹くんは……」

と明里はもう1度言って、

すこしの間うつむいた。

明里の後ろの雪原が朝日を浴びて

まるで湖面のようにきらめいていて、

そんな風景を背負った明里は

なんて美しいのだろうと、

僕はふと思う。

明里は思い切ったように顔を上げ、

まっすぐに僕を見て言葉を続けた。

「貴樹くんは、

 この先も大丈夫だと思う。

 ぜったい!」

じゃあ明里ちゃんは?

 

第2話 コスモナウト

貴樹と花苗の出会いと別れ。

彼らの高校生編を描く。

 

パン!という気持ちの良い音が、

朝の鳥のさえずりに混じって

小さく聞こえてくる。

ピンと張られた紙の的を矢が貫く音。

今は8時10分、

私は校舎の陰に緊張して立っている。

さっき校舎の端からすこしだけ

顔を出して覗いてみたところ、

弓道場にはいつも通り

彼一人しかいなかった。

弓道をする貴樹くん。

ちなみに新海先生は、

高校時代、弓道部だった。

 

H2ロケット4号機打ち上げ

平成8年8月17日10時53分。

H2ロケット6号機打ち上げ

平成9年11月28日6時27分……。

打ち上げが成功するたびに、

NASDAの人がやってきて

勝手に額縁を置いていくという噂だ。

実在した団体。

宇宙開発事業団NASDA

(National Space Development Agency of Japan)

2003年には、航空宇宙技術研究所NAL

(National Aerospace Laboratory of Japan)

宇宙科学研究所ISASと統合し、

(Institute of Space and Astronautical Science)

宇宙航空研究開発機構JAXAとなる。

(Japan Aerospace eXploration Agency)

まあ専門だし、多少はね?

 

遠野くんが買うものは

いつも決まっていて、

デーリィコーヒーの

紙パックを迷いなく選ぶ。

私はいつも何を

買うべきか迷ってしまう。

つまり、どんなものを買えば

可愛いと思われるのかという問題。

彼と同じコーヒーじゃ

なんだか狙っているみたいだし

(実際狙ってるんだけど)、

牛乳はちょっとガサツな気がするし、

デーリィフルーツは

黄色いパックが可愛けれど

味がちょっと好きじゃないし、

デーリィ黒酢

本当は飲んでみたいけれど

なんかワイルドすぎるし。

花苗ちゃん可愛過ぎ問題。

 

「でも今思えば、

 お互いにそれほど結婚願望が

 あったわけでもなかったのよ。

 そうすると付き合ってても

 気持ちの行き場がないの。

 行き場っていうか、

 共通の目的地みたいなね」

「うん」

よく分からないまま私はうなずく。

「ひとりで行きたい場所と、

 ふたりで行きたい場所は別なのね。

 でもあの頃はそれを一致させなきゃ

 って必死だったような気がするな」

ぐうわかる。

 

歯並びでも爪の形でも、

なんでもいいからーと私は願う。

私のどこかが

彼の好みでありますように、と。

花苗ちゃん、可愛過ぎか。

 

彼が立ち止まる。

たっぷりと時間をおいて、

ゆっくりと私を振り返る。

ここじゃない、という

彼の言葉が聞こえたような気がして、

私はぞくっとする。

「ーどうしたの?」

私の中のずっと深い場所が、

もう1度、ぞくっと震えた。

ただただ静かで、優しくて、冷たい声。

思わず彼の顔をじっと見つめてしまう。

にこりともしていない顔。

ものすごく強い意志に満ちた、静かな目。

強い拒絶。

 

それでも。

それでも、明日も明後日もその先も、

私は遠野くんが好き。

やっぱりどうしようもなく、

遠野くんのことが好き。

遠野くん、遠野くん。

私はあなたが好き。

花苗ちゃん…

 

第3話 秒速5センチメートル

貴樹と理紗の出会いと別れ。

彼らの社会人編を描く。

 

 3週間前に5年近く務めた会社を辞め、

次の就職先のあてもなく、

毎日を何をするでもなく

ぼんやりと過ごしている。

わかる。

私も心が弾力を失っていた頃は、

1日中、天井を見つめてた。

 

 4年間の大学生活について

語るべきことはあまりないように彼は思う。

理学部の授業は忙しくかなりの時間を

勉強に割かなければならなかったが、

しかし必要な時間以外は

大学へはあまり行かずに、

アルバイトをしたりひとりで映画を観たり

街を歩き回ったりすることに時間を閲した。

貴樹くん、理学部やったんか…

 

彼が就職したのは、三鷹にある

中堅のソフトウェア開発企業だった。

聞いたことのある場所ですねぇ…

国立天文台がある場所

 

あの日、島の空港で。

互いに見慣れぬ私服姿で、

強い風が澄田の髪と電線と

フェニックスの葉を揺らしていた。

彼女は泣きながら、

それでも彼に笑顔を向けて言ったのだ。

ずっと遠野くんのことが好きだったの。

今までずっとありがとう、と。

花苗ちゃん…

 

「すこし辛いんです」

という水野の言葉。

すこし。そんなわけはないのだ。

「悪かったな」

という彼の言葉、

「もったいないじゃない」

と言ったあの声、

「私たちはもうダメなのかな」

という塾の女の子、

「優しくしないで」

という澄田の声と、

「ありがとう」

という最後の言葉。

「ごめんね」

と呟く電話越しのあの声。それから。

「あなたはきっと大丈夫」

という明里の言葉。

総集編。

 

貴樹くん、あなたはきっと大丈夫。

どんなことがあっても、

貴樹くんは絶対に立派で

優しい大人になると思います。

貴樹くんがこの先どんなに

遠くに行ってしまっても、

私はずっと絶対に好きです。

どうかどうか、

それを覚えていてください。

明里の手紙。最後の部分。

 

 明里のことが、ずっと好きでした。

どうかどうか元気で。さようなら。

貴樹の手紙。最後の部分。 

 

そのまま別々の方向に歩き続けながら、

今振り返ればー、

きっとあの人も振り返ると、

強く思った。

なんの根拠もなく、でも確信に満ちて。

そして踏切を渡りきったところで

彼はゆっくりと振り返り、彼女を見る。

彼女もこちらをゆっくりと振り返る。

そして目が合う。

心と記憶が激しくざわめいた瞬間、

小田急線の急行がふたりの視界を塞いだ。

この電車が過ぎた後で、と彼は思う。

彼女は、そこにいるだろうか?

ーどちらでもいい。

もし彼女があの人だったとして、

それだけでもう十分に奇跡だと、

彼は思う。

 

この電車が通り過ぎたら

前に進もうと、彼は心を決めた。

 映画だと解釈が別れています。

しかし、小説ではハッピーエンドより。

色々書きたいことがあるので、

後日追記します。